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第十章 二.
そんな、昨日のヒナゲシ邸でのにぎやかな光景を、今しがた聞いた汐吉は、なぜか不機嫌そうに眉をしかめた。
「その顔はなんですか?」
ここは、喫茶カンテラ。沙雪がいつものように座った席から尋ねる。
「俺だって若葉の歌、聞きたかった」
「うちにくれば、いつでも聞けますよ。たぶん!」
「ふん。まあいい、元気そうで何よりだ」
月曜日となった今日、沙雪は一人でカンテラを訪れていた。月曜日は紅乃もおらず、元々客も少ないと聞いており、ゆっくり話ができると考えたからだ。
現に、開店して一時間の午後六時、客は沙雪のみ。
「ああ。あっちは午後なら大丈夫だって。面倒くさいし、ここまで来てもらおうかと」
「それでいいと思うわよ」
「五時であってるよな」
「ええ、確か」
カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。今日彼女が頼んだのは、アイスコーヒーだった。
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