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第十章 三.
翌日、汐吉は珍しく午前中から起きていた。とはいっても、布団の中で寝ぼけることおよそ二、三分。そこに店の電話が鳴る。
「朝からやかましいな」
そうつぶやきつつも、階段を下りて電話へと向かい通話口に出た。
「はい、喰代」
『あ、おはようございます、喰代さん』
「ああ、松浪さん……」
相手は沙雪だった。いつものしゃんとした口調に声が寝起きの脳に響く。目をしぱしぱ瞬きしながらなんとか答えた。
『急なんですけど、これからこっちまで来れます?』
「こっち?」
ヒナゲシ邸、つまり神田がある方向へということだ。
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