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それを確かめる術はない。そして、沙雪がいったことで、汐吉が信じていた“父親”は否定された。
彼女のいう死気に憑かれた、汐吉の父親は殉職――というと聞こえはいいが、被害者を殺した上に加害者と相打ちになって死んだのだ。被害者が死ぬ必要はなかった。
その被害者というのは、汐吉の母親で。つまりは、汐吉は“一人”なのだ。
――撃たないで。
――撃つな。
愛するという感情が存在するのならば、そんなことにならないはずではないか?
その出来事から、彼はすっかり、“人の愛情”を信じなくなっていた。
「……汐吉さん。私は、あなたのことを真菅警視正から伺ってここに来たんです。あなたのいう、警視庁にいる知り合いはその人のことですよね」
真菅悠生警視正。汐吉の父親の部下だった人だ。この八年で警視正にまで昇進していた。
その名前を聞いた汐吉はますます怒りのボルテージが上がってしまったようで、ついに沙雪の腕を掴んだ。
「え、ちょっ」
「出ていけ、今すぐ!」
「汐吉さ、ん」
「気安く名前を呼ぶな! さっさと出ていけ、ここにいていいのは従業員と客だけだ! その女も連れて行け!」
戸惑う沙雪は汐吉の力に引っ張り上げられて立ち上がる。亜子はどうしたのかと心配げに見つめるばかりで、紅乃は慌てた様子で三人のもとへ駆けつけた。
「店長、どうしたんですか、落ち着いてください」
「っ……、紅乃、この二人を外へ連れて行け」
「え?」
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