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「……いいえ、大丈夫です。自分たちで行きますから」
沙雪は、これ以上は刺激してはいけないと判断し、相変わらず寝ていた水品の肩を叩いて起こしはじめた。
「水品さん、帰りますよ、水品さん」
「ん……、んぅ?」
「もう、喫茶店で眠りこけて。ほら、立てますか」
「あー……ごめんなさい、私ったら……あ、そういえばあの、記憶のこと……」
「あとでお話します。帰りましょう」
「あ、はい」
沙雪と自身に背を向けている汐吉の様子がただならぬものだと察した水品は、うなずくとゆっくり立ち上がった。
「また来ます。店員さん、これ、お代」
「あ、はい! えっとお釣りを……」
「いえ、お釣りはいいです。ではまた」
「お邪魔しましたー……?」
水品はよく分からないまま、律儀に頭を下げると沙雪とともに店を出ていった。
「あ、ありがとうございました!」
閉じるドアに向かって大声を出すと、沙雪がチラリと振り返り、目元を細めて一度頭を下げた。そして、水品と共に、夜の闇へと消える。
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