第十一章 三.

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「汐吉サンて、方向音痴なんすねー」  快次がへらへら笑いながら話す。快次は、東京駅からも帰れるからと汐吉にあわせてくれることになった。東京駅へ歩いて向かう。 「意外そうに言うな。電車なんてめったに乗らないから」 「ということは、タクシー移動っすか? リッチだ」 「逆だよ。引きこもりだから」 「普段どうやって生活してんすか……」 「ネット通販と紅乃」 「こうの……?」  ボタン一つで買い物ができるネット通販は、汐吉のように引きこもりしたい人にとって最高のサービスだ。それとは別に、聞きなれない三文字に快次は不思議そうな表情をする。 「喫茶店やってるって言ったろ。従業員の名前だ。和氣紅乃。女子大生」 「へえ。アルバイトを雇ってるんすね」 「最低賃金すれすれだよ。常連客のおかげでなんとかもってるところもある」  新規客の開拓をしようともしていないのだから、当たり前といえば当たり前である。
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