第一章 四.

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 紅乃を呼ぶのがいつものことなのに、と思いながら汐吉が立ち上がろうとすると、侑斗はポン、と彼の右肩に手を置いた。 「人間なら、感情のひとつやふたつ、ありますよ」 「それは……どういう意味?」 「店長さんが人間でよかった、という意味です。いつも新聞か本を読んでいて静かだから。声を荒げることもあるのは、仲間のような気がして嬉しいです」  侑斗にとっては褒め言葉で、汐吉もまた、それが彼なりの慰めであることも理解した。大学を卒業すると同時に開いたこの店に、初めて足を踏み入れた客でもある彼だ。汐吉との付き合いは真菅警視正には劣るものの長いほうである。 「……ありがとう。席、戻ってていいよ」 「はい。小説、できたら読んでくださいね」 「君の話は面白いから楽しみにしているよ」  汐吉はようやく穏やかな表情になり、静かにうなずいた。
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