第十二章 二.

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「……紅乃が来てない」 「今日来るはずなの?」 「ああ。まあ、時間は六時から、だけど……」 「何かあったのかしらね。和氣さんは、なんていうか、普通に思えたけれど。休むなら電話をするような、そういう子っていうか」 「見えるっていうか、その通りだよ」  これまでも、彼女が休んだり遅刻することはあった。だが、基本ゆるゆる営業だ、汐吉は遅刻や欠勤で怒ったことは一度もない。 「……電話してみてもいいか?」 「どうぞ。明坂さん、来ないみたいだし」  他の客もいない。沙雪の了承を得て、汐吉は店の電話の受話器を取り、電話をかける。 「和氣さんの電話番号、覚えてるのね」 「当たり前だろ、従業員なんだから。……あ、おい、紅乃か?」 『ただいま、電話に出ることができません。時間をおいて、おかけなおしください』 「……だめか」  応答したのは、携帯の無機質な音声。いや、人の声ではあろうが、紅乃ではない。
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