85人が本棚に入れています
本棚に追加
「……紅乃が来てない」
「今日来るはずなの?」
「ああ。まあ、時間は六時から、だけど……」
「何かあったのかしらね。和氣さんは、なんていうか、普通に思えたけれど。休むなら電話をするような、そういう子っていうか」
「見えるっていうか、その通りだよ」
これまでも、彼女が休んだり遅刻することはあった。だが、基本ゆるゆる営業だ、汐吉は遅刻や欠勤で怒ったことは一度もない。
「……電話してみてもいいか?」
「どうぞ。明坂さん、来ないみたいだし」
他の客もいない。沙雪の了承を得て、汐吉は店の電話の受話器を取り、電話をかける。
「和氣さんの電話番号、覚えてるのね」
「当たり前だろ、従業員なんだから。……あ、おい、紅乃か?」
『ただいま、電話に出ることができません。時間をおいて、おかけなおしください』
「……だめか」
応答したのは、携帯の無機質な音声。いや、人の声ではあろうが、紅乃ではない。
最初のコメントを投稿しよう!