第二章 一.

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第二章 一.

――『汐吉、ちゃんと大学に行きなさい。三時間目からなんでしょう』  そう言って、母親・美奈代(みなよ)に授業への出席を催促されたのがもう八年前とは思えない。  カンテラは建物の一階部分にあたり、二階は自宅になっているが、かつては一階も住居スペースだった。そう、汐吉は受け継いだ家を改装し住宅兼店としている。  カンテラの営業を終え、就寝の準備をして布団にもぐった彼は、頭の下で腕組みしながらつぶやく。 「浄化、か。仮に、本当に俺が能力を持ってるとして……」  先ほどの、黒い煙が消えていったのは幻覚でもなんでもなく、きっとおそらく現実だった。  ふと、腕組みしていた手をほどいて、右手を目の前に持ってきて見つめる。  八年前、何もすることができなかったこの手に、死気とやらを消すことができる能力が本当にあるのだろうか。もしあるのだとしたら、いつからあるのだろうか。  父親が死気だったとしたら、止められなかったのだろうか。 ――『お父さんには言ってないんだけど、最近、買い物帰りとか誰かにつけられているみたいなの』 ――『意識しすぎだって、四十半ばのお袋がストーカーなんかされるかよ』  正直、それが本音だった。汐吉からみても、確かに美奈代は年齢の割には若く見えた。童顔だったのも関係していたかもしれない。それゆえ、汐吉は周囲から父親似だとよく言われていた。  それすらも、今では鎖となっている。  母親を殺した父親と似ている自身の顔。  母親を殺した父親をどうすることもできなかった自身の手。  そして、母親に暴力をふるっていた加害者の男・門田(かどた)(りょう)を止めることができなかった自身。
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