第十二章 三.

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「若葉は蒼早のところに住んでるだろ。実家近くでもないのに、なんでそんなところに」 『大学の授業の一環で、国立新美術館に行ったらしい。ゼミがどうとか言っていたかな。教授含めて五人なんだってさ』 「そうか」  若葉が所属している学部にまで気を配ったことはなかった。ゼミの担当教授が校外にも積極的に出ていくような、そういう人なのだろう。……あるいは、若葉の事情を知っていて気分転換を兼ねたものか。それは汐吉には分からない。 「……誰から死気が?」 『それは僕も分からないよ。藤枝がいうに、一瞬だったらしいから。ちなみに、明坂や和氣じゃないことは確認済み。彼は二人に会っているからね』  例えば快次なら、紅乃には会ったことがないから彼女かそうでないかは断言できない。だが、若葉は、両方に会っている。その彼が二人ではなかったというならそうなのだろう。 『そして、男性だったそうだ。スーツを着ていたと』 「そうか。一瞬っていうのは、死気が、か? それとも、その人を見たのが一瞬?」
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