第十二章 四.

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第十二章 四.

 和氣紅乃、二十歳。好みのタイプは店長、こと、喰代汐吉。いや、好みというよりは、憧れ。  あんなにけだるそうにしているのに、仕事はこなすし、なんだかんだ面倒見がいいところに甘えたくなる。年の差は八歳だけど、一回りとはいかないから、全然許容範囲。 「……けほっ」  咳をするように声を出す。まぶたを開けると、薄暗い部屋にいるようだった。確か、夏のはずなのにここは涼しい。 「あれ……私、い、たた……」  腕に痛みを覚えながらゆっくり起き上がる。きょろきょろと周囲を見渡すが、誰もいない。あるのはテーブルとパソコンか何かのモニター、あとカレンダーや冷蔵庫。ドアがやけに遠く見えたが、そうでもなさそうだ。窓はない。 「……寝てたのかな。今日、何曜日だろ……大学……」
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