第十三章 一.

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「氷川神社の近くで、死気が憑いたらしい人を見ました。ぼくは教授が運転する車の中で、外を眺めていて……目が合ったんですけど、それだけで終わってしまって」  ナイフとフォークを構えたまま言うと、パンケーキを一口サイズに切り始めた。 「スーツ姿の男性だった、ということしか……。女性には見えませんでしたし、仮にそうだとしても、明坂さんや和氣さんではありませんでした」 「あの、洲崎とかいう人でもなかったんでしょ?」 「はい、全然違いました。顔は覚えたので、見れば思い出せるとは思います」  申し訳なさそうにしながら、ぱくりと切ったパンケーキを口に入れる。すぐに、お、と頬をゆるませた。 「おいしいです、パンケーキ」 「そりゃよかった、出来立てだからな」 「これ、レンチン?」 「ちゃんと焼いてますー」  蒼早にからかうようにいわれ、ぶすっとしながら言い返す。自分だけのものなら電子レンジで作れるものにしてもいいが、仮にも客なのだ。真菅と違って。
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