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第二章 二.
翌日の昼間、汐吉から怒りの電話を受けた真菅が顔を見せた。
「本当にあけていたんだな」
「当たり前だ」
ぶすっ、としたいつも以上に不愛想な表情で汐吉は答える。
真菅の正式な肩書きは警視庁刑事部、捜査一課課長の警視正。年は三十八、汐吉のちょうど十歳上となる。
彼はまっすぐカウンター席へと向かい座った。五席ある中の一番左側。店の奥側に近いそこが、指定席のようなものだった。テーブルは七席ある。
「松浪さんが来たんだってな」
「そうだ。松浪沙雪とかいうのをここへ来るようにけしかけたのはアンタだろ」
「けしかけた、は正しくない。汐吉はどうか、といっただけだ」
「どうもクソもねえ」
やはり怒った様子で、彼はお湯を紙ドリップの中へと注いでいく。コーヒーの淹れ方ひとつとっても様々あるが、サイフォンで優雅にコーヒーを、なんていう気分ではない汐吉は、真菅が“客”ではないのをいいことに、普段よりやや乱暴にドリップコーヒーをいれていた。
「おい、汐吉、そのやり方はどうなんだ」
「文句あるなら白湯にでもするか?」
「いや……、いい」
本当に白湯にしかねないのを悟った真菅は仕方なさそうに首を横にふった。
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