第十三章 三.

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 ウィンクを同伴させるが、汐吉も蒼早もそのようなものは欲していない。かといって、表情に出すわけにもいかず、汐吉は営業スマイルで答えることにした。蒼早は無関心な表情のようだが。 「で、その大吉暁さんは……、クリエイター。ね」 「そ! 映像編集やってんの。フリーランス!」 「若そうだが、何歳か聞いても?」 「二十歳。そこの、アオサくんとあんま変わんないっしょ」 「そうだね」  名字呼びでないことに満足しているらしい蒼早は素直にうなずく。蒼早の年上で若葉の年下、ということになるが、雰囲気は彼らと真逆だ。いわゆる“パリピ”。 「あー、俺、用事あるんで!」 「あ、ああ。じゃあ」 「ばいばい」 「んじゃな!」  ひらひら、と手をふってさっさと行ってしまう。名前と年齢、そして名刺。話し方と存在、どちらも軽い空気を残した彼はあっという間に姿を消した。
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