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コーヒーのいい匂いがしてくる。やはり、こだわって選んでいるだけあって、コーヒーそのものの品質はとてもよさそうだ。
「おらよ。飲め」
ドン、という音と共に、カウンターの上にコーヒーが入ったカップを置く。本来はソーサーの上に乗せて出すが、それすらも省略した。営業時間ではないし、何より。
「他の客にもそういう対応なのか?」
「アンタは客じゃない」
それがすべてだった。
「……汐吉。勝手に話して悪かったとは思っている」
「だったら、ああいうやつが行くかもしれないって事前に教えてくれたっていいだろ」
「そうしたら松浪さんが行くまで閉店してたかもしれないじゃないか」
「よく分かってるな。俺は面倒ごとが嫌いなんだよ、予約の電話が入った時点で断るし入店拒否する」
「そういうことをして困るのは汐吉だぞ。どこで誰が見ているか分からないんだ、小さな店だからって……」
「“小さな店”?」
汐吉はその言葉に引っかかったようで、真菅が話しているにもかかわらず口をはさむ。
「そもそも、あんなことにならなけりゃ“小さな店”をやってねえよ」
「……わかってる。言葉を間違えた」
「じゃあなんていうつもりだったんだ? 言い直してみろ」
「油断をするなといいたいんだ。世の中、善人だけじゃない。汐吉の性格を利用して誰かが犯罪を犯すかもしれないだろ」
「あいにく、俺を犯人にするメリットはないからそういうことはあり得ない」
真菅の意見は聞きたくない、というようにピシャリと言い切る。
「あのな、メリットなんていくらでも作れるんだぞ。例えば君が私を殺したとして――」
「俺はアンタを殺さない」
「あ?」
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