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「俺は、アンタを殺したいと思ったこともなければ殺しもしない」
「……なんだ、急に」
「親父のこと知ってるの、アンタくらいだろ。話し相手、いなくなったら困るし。例えが悪い」
「そうか……」
汐吉にとっては、本音であるそれを聞いた真菅は、先ほどまでの勢いがなくなったように、そして感慨深げに息をついた。
―上司の息子だから、だけではなく、弟だと思っているのが伝わっているんだろうか。
かれこれ八年、いや、汐吉の父親の部下時代を含めれば十年近くになる。
真菅は彼を弟のように世話をしてきたつもりだった。血のつながっていない兄弟というのは、新鮮でありながらも不思議な関係性である。
「嬉しそうな顔をするな」
「……そんな顔してたか?」
思わず、顎に手をあてる。汐吉がようやく怒っていた表情をゆるめた。
「してた。いつも、“誰の指図も受けん!”みたいなツラしてんのに、俺と話してると分かりやすいよな」
「一応人の上に立つからな、ポーカーフェイスは基本だろ」
「無表情の上司のほうが怖いんじゃねえの?」
「そういうものか」
汐吉の言う通り、捜査一課では、真菅は怖がられている。主に、新しく入ってきた若者に。一年も経てば、慣れからなのか、恐れる人は少なくなるという。
「……松浪さんとはどこで知り合ったんだ」
ようやく、本題について話す気持ちになったらしい汐吉が、グラスに水を入れながら尋ねる。
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