第二章 二.

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「俺は、アンタを殺したいと思ったこともなければ殺しもしない」 「……なんだ、急に」 「親父のこと知ってるの、アンタくらいだろ。話し相手、いなくなったら困るし。例えが悪い」 「そうか……」  汐吉にとっては、本音であるそれを聞いた真菅は、先ほどまでの勢いがなくなったように、そして感慨深げに息をついた。 ―上司の息子だから、だけではなく、弟だと思っているのが伝わっているんだろうか。  かれこれ八年、いや、汐吉の父親の部下時代を含めれば十年近くになる。  真菅は彼を弟のように世話をしてきたつもりだった。血のつながっていない兄弟というのは、新鮮でありながらも不思議な関係性である。 「嬉しそうな顔をするな」 「……そんな顔してたか?」  思わず、顎に手をあてる。汐吉がようやく怒っていた表情をゆるめた。 「してた。いつも、“誰の指図も受けん!”みたいなツラしてんのに、俺と話してると分かりやすいよな」 「一応人の上に立つからな、ポーカーフェイスは基本だろ」 「無表情の上司のほうが怖いんじゃねえの?」 「そういうものか」  汐吉の言う通り、捜査一課では、真菅は怖がられている。主に、新しく入ってきた若者に。一年も経てば、慣れからなのか、恐れる人は少なくなるという。 「……松浪さんとはどこで知り合ったんだ」  ようやく、本題について話す気持ちになったらしい汐吉が、グラスに水を入れながら尋ねる。
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