第十四章 二.

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「最初は見間違いか何かだと思っていたんだ。目撃者は入院患者で還暦をとうにこえた高齢者だから」 『そりゃ、他の人も見てないのなら、信じるのは難しいかもしれないけど……』 「その通り、他の人は見ていない。まあ、時間に余裕があるやつでなきゃ、外など見ないからな。それに、退院するときにはいない彼女が、後になって現れた目的も分からなかった。理由もなしに病院に来るか? 散歩だ、といわれればそれまでだが」 『紅乃のことで、それが分かったとでも?』 「ああ。明坂さんの目的はおそらく和氣さんだ。カンテラの従業員であることを知っているのは、ヒナゲシ会のメンバーと、明坂さん、それから常連客」 『……当然二俣くんも含まれる』 「そうだ。二俣侑斗が明坂さんに仕事を依頼し王子神社に行かせた、それは和氣さんと会わせるためだろう」 『金崎さんに会ってくる、あの日王子神社にいた理由を知りたい』 「それがいいな」 『二俣くんの、いや、二俣の居場所が分かったら教えてくれ』 「分かった。汐吉、敵が何を考えているかは分からないが、狙いはお前のように思える。気をつけろ」 『大丈夫だ。……こっちには仲間がたくさんいるからな』  じゃ、という声を最後に、プツリと電話が切れる。  あの飄々とした彼が珍しく感情を出していた。声を聞けば分かるほどに。真菅も携帯電話をポケットにしまうと、今度は机に備え付けてある電話を手に取った。  今探すべきは、明坂瑞樹ではなく、二俣侑斗だと確信した。
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