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第十五章 一.
時刻にして、夕方の五時近く。汐吉と蒼早は、富岡八幡宮の鳥居近くにいた。夏ということもあって、まだまだ日が高いのか、明るい。
「蒼早、あっちはどうだった?」
「何も。特別気になるような人もいなかった」
汐吉の問いに、残念そうに横に首をふる。本殿の前、参道の端で話す。
「ここにはいないっていうことか……」
「今日だけかもよ。昨日はいたかもしれないし、明日はいるかもしれない」
「……そうだな」
蒼早はいつだってクールで、人の感情などおかまいなしだが、沙雪や汐吉と出会い、誰かとちゃんと暮らすようになってからは、出会った当初の無愛想な表情は少なくなっていっていた。
今のように、誰かを励ますようなことも増えた。
おそらく沙雪を見ているからだろう、と汐吉は勝手に彼女に感謝した。もはや蒼早の母であり姉であり仲間であり、汐吉や若葉、快次といった他のヒナゲシ会メンバーにとっても必要な存在である。
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