第二章 二.

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「したがるも何も、親父の件は俺のせいだ」 「君が静己さんを呼ばなかったら、美奈代さんはどうなっていた。門田稜に何をされていたと思う。最小限の被害で済んだ」  つい先ほど静まったはずの汐吉の怒りは、いや、怒りというよりも自身への苛立ちを真菅へぶつけるように、バンと強くキッチン―カウンターの内側にあるコーヒーを淹れていた場所、調理をするエリアは壁側にある―を叩いた。 「両親が死んだのが最小限の被害だっていうのかよ! 誰も死なないのが、犯人逮捕が、最小限の被害で最大の幸福だろ!」 「静己さんと美奈代さんが死んでよかったとは一言も言っていないぞ」 「似たようなもんだろっ……」 「私が言いたいのは、死ぬ以上に不幸なことが起こっていたかもしれないということだ」  ぴたり、と汐吉の動きが止まる。その眼は、おそるおそる真菅を見ていた。 「不幸なこと……」 「汐吉にとっては、ご両親が亡くなったことが不幸だ。だが私にとっては、美奈代さんが門田にもっとひどいことをされていたかもしれないことが不幸だ」  では幸福とは何か。 ―俺が“浄化”の能力を持っていることが分かったことか?  両親が死ななければ、違う終わり方を迎えていたなら、静己が死気に侵されていたことに気付かなかった。
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