第一章 二.

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 東京都北区。夜しか営業しない、一風変わった喫茶店があるという噂があった。今では、噂どころか、インターネットの口コミサイトにも掲載されているし、フリーペーパーにある穴場のお店紹介というようなコーナーでも取り上げられており、その存在は認知されつつある。  もっとも、その喫茶店の店主である喰代(ほおじろ)汐吉(しおきち)という男は、最低限の働きができればいいという考えの持ち主でもあった。 ――お店の人がかっこいい。 ――不愛想だった。 ――コーヒーがすごくおいしくてお店の雰囲気もいいかんじ。 ……そういうレビューが増え始めるほどには。  年は二十八、鼠よりも薄い灰色の髪は少々長く、適当に黒いヘアゴムで結われている。おかげで、横髪はだらしなく頬の横に垂れているが、手入れはされているようで光を鏡のように反射している。前髪はというと、こちらもやや長めだが、耳にかけることでそれなりに視界の邪魔にならないようにしているようだ。  汐吉が店を始めて五年が経とうとしているのもあってか、彼が淹れる紅茶はたいそうおいしいと常連客は皆注文する。喫茶の名は、カンテラ。その看板を掲げる喫茶店は、夜に灯りをともす。 ***
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