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プラネタリウムを投影していたプラネタリウムホールや会議室等、施設が充実している北区のシンボル、北とぴあ。そこを出て交差点を右に曲がり、高架下をくぐってゆるやかな坂道をのぼると左手側に、汐吉の営む喫茶店が見えてくる。
“カンテラ”を目印に左に曲がれば、近くにある王子神社が見え、北側へ三百メートルほど歩けば王子稲荷神社もあるなど、観光地としてめぐまれた立地となっている。
「こんばんは!」
「ああ、こんばんは」
夏も終わるかというこの季節、ドアベルを鳴らして元気よく挨拶をしながら店内に入ってきたのは、“カンテラ”唯一の従業員である和氣紅乃という名の女性だ。
ミルクティーのような薄い茶色の髪はポニーテールで結われており、前髪はM字型でくりっとした目と黒目がちな瞳がよく見える。
まだ大学生だということもあってか、二十歳らしい初々しさとかわいらしい雰囲気が、訪れる客から人気があり、ここで働き始めて一年は経っていた。
「店長、今日の新聞はどうですか?」
「特に変わりなし」
「それは何よりです。着替えてきますね!」
汐吉が適当に返事をしながら新聞紙を広げていても彼女は気にすることなく、いつもの足取りで荷物置き場があるバックヤードへと向かう。
この店は汐吉の住宅が二階にあり、一階が店のスペースとなっており、キッチンの奥の方が“バックヤード”である。着替えといってもエプロンをつけるだけで終わるため、荷物を置くのを含めて数分で終わる。
「そうだ。店長、今日はご予約が入ってますよ。準備はできていますか?」
「……予約?」
記事の文章を追っていた目を上げて紅乃を見る。初耳だとでもいうような口ぶりに、紅乃はまったくもう、と苦笑いを浮かべながらうなずいた。
「ほら、電話があったじゃないですか。二週間前」
「二週間前?」
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