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「そうか、珍しく予約の連絡がきたから嬉しかったんだな」
「そうです。そうなんです!」
うなだれた犬のように寂しげな目をしていた紅乃だが、汐吉のフォローにも似た言葉にすぐさま目をキラキラさせはじめた。それはまるで、大嫌いな病院に連れて行かれてしまったものの散歩に行くよといわれて途端に機嫌を直した犬のようだ。
そんな犬の幻想を紅乃に重ねながらも、汐吉は壁に掛けている時計を見上げた。
「あと一時間だな……、席は奥側にするか。窓側でもいいが」
「奥にしましょう!」
「予約席の札も置いておけよ」
「はいっ。作っておいてよかったです!」
―そうだ、前に紅乃が作ってくれたんだった。
またもそんなことを思い出す。どうせこんな小さな店に―大繁盛している連日満員の店ならともかく―予約をする物好きはいないからという汐吉に対して、
――『準備しておいたらいらっしゃるかもしれないじゃないですか』
と紅乃はほがらかに笑って言った。そうしたいならそうしろ、と任せたあとどうなったかを、今知ることとなったわけだが。
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