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「……しかし、なんでまたうちに予約なんか」
「口コミが増えたからじゃないですか?」
「神社の陰にあるような喫茶店だぞ」
「私はもっともっとお客さんに来ていただきたいです」
紅乃は接客が好きだ。だからこそ、客が来るのを喜ぶ。接客は嫌いというより苦手でやる気の起きない汐吉とは正反対だ。熱量も当然異なる。
「あぁ、そう。とりあえずよろしく」
「はい!」
乾いた返事にも、律義に元気よく返事をする。汐吉はなんとなしにカレンダーを見た。
「今日は水曜日か……、二俣くんは来るかもしれないな」
二俣侑斗、常連客の一人で小説家の卵だ。記事を書く在宅の仕事をしながら、小説家になる夢を追いかけている、二十六歳の青年である。週に三日ほど“カンテラ”に来ては、紅茶を飲みつつノートパソコンの画面と向かい合っている。
きっと今日も来るだろうと、汐吉はついに新聞を読むのをやめると四つ折りにしてカウンターの隅の方へと置いた。
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