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「それに、宇佐見のところはなあ……何するかわからないだろ」
「記者が出入りしてるんでしたっけ?」
「そう。情報売られちゃかなわない」
蒼早なら“利用価値があるなら取り入っておけ”とでもいいそうだが、汐吉は宇佐見のことを自身の手におえる人物ではない、と評価していた。
それほど素性が分からず、いまいち思考が読み取れない。紅乃みたいに分かりやすかったら助かるのに、と思いつつ、世の中彼女みたいに分かりやすすぎる人が多いのも面倒だな、と考え直したところで、店の電話の音がなった。
先ほど電話をした真菅からだった。
「はい、もしもし」
『ああ、汐吉か。真菅だ。頼まれていた件について調べた』
「早いな」
『調べられたことが少なくてな。このまま口頭で言ってもいいか? メールだと残ってしまう』
「別に文章で残ってもいいだろ。妖対策課って警視庁の中だし怪しくはない」
『あのな、君が調べるよう頼んできたのは容疑者でもなんでもない人だ。私は探偵会社の探偵じゃない』
怒りというより、不快そうに“言わないこともできる”という意思を見せるかのような言い方に、さすがに汐吉も素直に謝った。
「ああ、悪い、分かった。あー、待って、メモ用紙……」
聞いただけで覚えられればいいが、注文でもないのにそんなことができるはずもなく、汐吉が紙と書くものを探す素振りをすると、視界の右側から、ボールペンと数枚の用紙が差し出された。
見れば、掃除を終えた紅乃がニッコリ笑って立っている。
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