第五章 二.

1/8
前へ
/345ページ
次へ

第五章 二.

 週末の土日は、喫茶カンテラは定休日である。  そんなわけで、日曜日。汐吉は紅乃を連れて、例の屋敷へ来ていた。夜営業の喫茶店を営んでいるのは、汐吉が夜行性なことだけが理由ではないものの、やはり影響は大きかった。  現在、朝の十時。昼まであと二時間だというのに、非常に眠い。 「紅乃……本当にこっち?」 「あってますって、あと少しです!」 「眠い」 「道端で寝ないでくださいよ」  ほら、と紅乃に腕を引っ張られるまま、のそのそと歩く。いつもは歩くスピードの速い汐吉だが、今は逆転してしまっている。 「てんちょ……あ」 「ん……?」  ふいに、紅乃が振り返ると背の高い汐吉を見上げる形になる。言葉を発さず、かたまってしまった彼女を見て、汐吉は不思議そうに首を傾げた。 「紅乃? どうした?」 「……店長の髪って、銀色なんですね」 「え?」  何を言われるのかと思った汐吉は、チラ、と視線で自分の前髪を見上げた。 ―ああ、太陽の光で反射しているのか。 「銀色なんていう高尚な色じゃない。ドブネズミの灰色だよ」  自嘲まじりにいうと、紅乃はぶんぶんと勢いよく首を横にふり、黒い瞳に星を宿したようにキラキラさせた。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加