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第五章 二.
週末の土日は、喫茶カンテラは定休日である。
そんなわけで、日曜日。汐吉は紅乃を連れて、例の屋敷へ来ていた。夜営業の喫茶店を営んでいるのは、汐吉が夜行性なことだけが理由ではないものの、やはり影響は大きかった。
現在、朝の十時。昼まであと二時間だというのに、非常に眠い。
「紅乃……本当にこっち?」
「あってますって、あと少しです!」
「眠い」
「道端で寝ないでくださいよ」
ほら、と紅乃に腕を引っ張られるまま、のそのそと歩く。いつもは歩くスピードの速い汐吉だが、今は逆転してしまっている。
「てんちょ……あ」
「ん……?」
ふいに、紅乃が振り返ると背の高い汐吉を見上げる形になる。言葉を発さず、かたまってしまった彼女を見て、汐吉は不思議そうに首を傾げた。
「紅乃? どうした?」
「……店長の髪って、銀色なんですね」
「え?」
何を言われるのかと思った汐吉は、チラ、と視線で自分の前髪を見上げた。
―ああ、太陽の光で反射しているのか。
「銀色なんていう高尚な色じゃない。ドブネズミの灰色だよ」
自嘲まじりにいうと、紅乃はぶんぶんと勢いよく首を横にふり、黒い瞳に星を宿したようにキラキラさせた。
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