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「いいえ、銀色です。いつもはお店の電気の下だから、こうやって自然の中で改めて店長を見ると新鮮ですね!」
悪気なく、いつものように笑顔のまま彼女がいう。きっと他意はない、本当に心からの感想なのであろうが、それゆえに、汐吉は気恥ずかしくなった。
なにせ、この二十八年―しれっと二十歳以前も含めているが―女っけがなく、人を避けていた節もあるのだから、言われ慣れていないのは当然だった。むろん、妹のようなものとして考えているから、変な方向に考えることはないはずであるが。
「別に……、紅乃は褒め上手だな」
「本音ですよ」
その一言は、明るい紅乃ではなく、いつもは影も見えないおしとやかな彼女っぽく見えた。そのギャップにのみこまれそうになった自分から顔を背けるように、汐吉は思わず視線をそらす。
「もういい、さっさと行くぞ」
そう言ってさっさと歩きだしてしまった彼の背中を見て、紅乃はクスリと笑みをこぼす。
「さっきまで眠そうだったのに」
汐吉には聞こえないように小声でつぶやくと、小走りであとを追いかけた。
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