第五章 二.

3/8
前へ
/345ページ
次へ
「あ~いらっしゃい!」  汐吉と紅乃を、いつもと変わらない沙雪が明るく出迎えた。 ――『ふじえだわかば? っていうんですか?』 ――『ええ、日曜日は私も蒼早くんも家にいるわ。都合よさそうなら』  藤枝若葉のことを連絡したとき、そういわれた汐吉は、紅乃を引き連れてあの屋敷へとやってきたのだった。 「和氣さんも、ようこそ」 「うわーっ、うわーっ、すごーい! 歴史を感じます! この柱なんて木目がきれいに出てる……高級そう……」 「ですってよ、蒼早くん」 「喜んでくれる人がいていいね。僕の家族は、こういう物の価値をあまり知らないから」  相変わらず冷めた様子で、だが口元は微笑みながら沙雪に答える。 「こちらでお待ちください。蒼早くん、座布団、おだしして」 「……僕が?」 「あなたが。お茶いれてくるわ!」  台所へと消える沙雪の背中を見た蒼早は、仕方なさそうに、部屋の隅に置かれていた座布団を二つ、机の前へと並べた。 「お邪魔します」 「お邪魔しまーす!」  汐吉が最初に座り、紅乃も横に並んで座る。蒼早は自分の座椅子を引きずるようにして机へ近づけるとドサッと座った。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加