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第一章 三.
時刻は二〇時となった。しかし、扉は開かない。店内には汐吉、紅乃、そしてやはり来た常連客の二俣侑斗と、こちらも常連客の金崎亜子がいた。彼女は紅乃と同じ大学に行く同級生であり、友人である。
「亜子ちゃん、お水どう?」
「もらおうかな」
「はーい」
紅乃は時刻を気にしながらも、水の入った瓶を持って亜子のいるテーブルへと向かう。と、侑斗はイヤホンを外して、右手をまっすぐ天井へ伸ばしていた。
彼の藍色のようないや紺色のような、暗い青色の短髪は美容院帰りかのようにきれいに整えられている。前髪は適当に分け目で流しており、後ろはワックスで流れをそろえているようだった。
ヘーゼル色のような瞳で、紅乃のほうを見る。
「……和氣さん、こっちも水。あと紅茶おかわり」
「はーい、ただいま!」
注文をするときはイヤホンを外すのが侑斗の癖というより特徴であった。紅乃は明るく返事をすると、汐吉のほうへ顔を向ける。
「店長、侑斗さん紅茶おかわりです!」
「はいはい」
のんきに本を読んでいた汐吉は紅乃に言われて見開きのまま置くとゆっくり立ち上がる。
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