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「かといって、女性関係が派手ということもなく。今は彼女いないそうですよ」
「紅乃、狙ったら?」
「へっ?! な、なんでですか、私っ、顔にはつられませんからっ」
汐吉がからかうつもりで紅乃に会話のボールを投げたら、受け取った彼女は予想以上に赤面してしまった。理由が分からない彼は、気付かないフリをして会話を続ける。
「年近いだろ。一歳違い」
「私は……同年代は嫌です」
紅乃が横に座っている汐吉を見る。彼はその視線に意味があるとは思わないまま素直に受け止めて、
「ふうん、変わってんな」
と一言で済ませた。
その状況にやきもきしているのが机を挟んで反対側に座っている沙雪である。蒼早は相変わらず眠たげで、目は閉じられているため、この二人を見ているのは彼女一人だ。
「ちょっと待ってください」
「あ?」
「喰代さんは、喫茶店の店主さんでしょ? その従業員が和氣さんでしょ? なんでわからないの?!」
「……は?」
「ま、松浪さん、あの、いいので、それ以上は、わっ」
止めようとした紅乃だが、沙雪は勢い余って机に両手をつけて膝立ちする形になる。
混乱のあまり沙雪が暴走しかけているが、唯一のストッパー役と思われる蒼早は夢の国へいっている。
「それとも何ですか、そういうプレイなんですか?」
「いやちょっと待て、何を言い出してんだアンタは」
「だって男女がそんな」
「落ち着けって!!」
汐吉が大声を出したことにより、夢の国から超特急で帰ってきた蒼早の目が開かれる。
「……大声で騒がないでよ」
低く不機嫌そうな声音が響く。ようやく、この部屋に平穏が訪れた。
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