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「……冗談だよ」
「ふん」
蒼早は鼻で笑って座椅子から立ち上がった。紅茶のお代わりに行くようだ。
汐吉はお茶を飲んでいた沙雪に声をかける。
「そういや、最近は見ないのか? 死気」
「私は見てないわね。相談してくる人も、元々多いわけじゃないし……。自覚もないので、たいていは、“自分って疲れてるんだな”で終わっちゃうの。その結果、自殺したり、殺人事件を起こしたり……」
「一種のうつ病みたいなもんか」
「いいえ」
汐吉の何気ない感想を、沙雪が間髪入れず否定した。
「うつ病は治せますが、死気は喰代さん以外には、治せません」
その表情は、これまで彼女が見せていた穏やかなものでも、ほがらかなものでも、慌てたようなものでも、どれにも当てはまらない、いうなれば自身が殺人事件の当事者になってしまったかのような、神妙な面持ちだった。
「……悪い。死気を少しでもなくすために、ヒナゲシ会はあるんだもんな」
「そうですよ。今日は頑張りましょうね!」
先ほどとはうってかわって、沙雪がほほ笑む。その差に、汐吉も、蒼早も。勘づいていた。彼女も、二人のように“闇”のような事情を抱えていることに。
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