第五章 三.

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「ああ、やっぱり。あってました」 「店長、意外と弱いんですね。こういうの」 「うるさい。……いつもはタクシーに乗ったり、誰かに連れて行ってもらったりして、外に出ないんだよ」  つまりは、引きこもり、ということである。自宅と店が一緒になっているぶん、“出勤”はない。沙雪と違って、呼ばれればどこへでも、というようなことはまずない。 「じゃあ亀戸天神社、行くか」 「ワカバさん、いるかしら」 『いないと困る』 『そうですねぇ』  そんな四人の会話が、侑斗の耳にはめられたイヤホンから聞こえてくる。 「二俣さん? 聞いてます?」 「ああ、聞いてるよ」 「それ、最近よく見るBluetoothのイヤホンですか? 通話もできるっていう」 「そうそう。あ、通話はしてないよ。安心して。遅れてきたくせに、そういうマナー違反なことしないから」  ニコリ、と相手に対してほほ笑む。  東京駅近くの喫茶店、注文しているのはホットのブラックコーヒー。彼と話をしているのは、明坂(あけさか)瑞樹(みずき)という女性だ。
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