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父ハヤブサのお仕事
荒れ模様の日は不首尾に終わり、単純に運が悪い時もある。どうやら不運のやつは今日という日にターゲットを定めたらしい。天候が良好だったにもかかわらず肝心の獲物の数がぱっとしなかった。小さな獲物三つだけでは育ちざかりのチビたちを養うには不十分に過ぎる。なんてこった。今シーズンはチビたちが生まれてこのかた順調だったのにな。
最後のエサを巣に運んでからそれなりに経ってるがいまだめぼしい獲物を見つけられていない。チビたちだけでなくおれの腹までピンチになってしまった。狩り場のどこにいても嫁の催促の声が鳴り渡る。オペラ歌手顔負けの伸びやかなアルトはいつになく厳しい音色を帯びて神経をぴくぴく刺激し、いたずらにおれの焦りを引き出すばかりだった。チビ三羽を交えての四重奏も珍しくない。たまたま巣の近くに寄った時なんざ夜中なのにチビたちの鳴き声がさざなみのように哀調を帯びて寄せてきた。エサを求めてるのさ。おれだって腹ペコだ。だからこんな夜半にもエサを探し回ってる。
チビたちの鳴き声に押されてますますエサ探しにやっきになるものの、こんな時間に活動してる獲物は……バットくらいなもんか。こいつらは大した腹の足しにならないし、なんといってもひらひら飛び交う連中を狩るには夜目が利きにくい。結局獲物が活発化する夜明けを待つことにした。
たった一日のエサ不足でぽっくりいくほどヤワじゃない。ただ無理は禁物だ。特におれの場合は狩りに膨大なエネルギーを消費するからな。獲物を捕らえて運ぶのがおれの仕事。おれの調子が悪い日にはあいつたちはすぐに飢えてしまう。チビたちの生死はおれの体調一つに左右されるってことだ。責任重大なんだぜ。そういうわけで必要に応じて狩りに出られるようつねに英気を養っておく必要がある。さもないとチビたちもおれも餓死しちまうからな。嫁はチビたちがそこそこデカくならないと狩りに参加しない。腹が減れば自分の分なら勝手に調達するだろうが、チビたちの腹を満足させるにはあまり当てにならない。やっぱり家族の生活はすべておれの肩と爪にかかってるのさ。
翌日。
空が白み始めた頃におれはさっそく飛び立った。
今日のエサを調達するためにな。言うまでもないだろう? おれたちは毎日が飢えないために必死なんだ。食うために生きてるようなもの。昨日は不調だったのでなおさらだ。一刻も早くエサの獲物を見つけないとやばいんだよ。とにかく余裕がない。
おれは狩り場のお気に入りの場所で自分用の小さな獲物を仕留めた。本番に向けたとりあえずの腹ごしらえだ。二羽と食い足りないが少しは体力が戻っただろう。その後は幾らかある待ち伏せ場所をあちらこちらと移動して、めぼしい獲物が現れるのを根気よく待ち続けた。ちっちゃいのばかりがちょこちょこ飛んでいる。しかもこっちを警戒してなかなか隙を見せようとしない。見晴らしがいいフィールドなのでこっちの姿が丸見えなのさ。なに、ばれてたって全然ノープロブレム。連中はおれの超絶スピード技巧から逃れられやしない。ちっちゃな獲物なら簡単に空中でキャッチできる。だがしかしな、石を投げればぶち当たるようなのではチビたちは満足しない。こっちとしても大物を捕らえなきゃあオスとしての示しがつかない。最低おれと同じくらいか近いサイズの獲物が必要だな。
おっと、あんなところにピジョンの団子が飛んでるじゃないか。群れになるとちょいとハードになるな。ワイフがいれば楽ちんなんだが。が、そんなことは言ってられない。おれも家族も今は飢えている。正直、飢えの前には慎重さや臆病さなんてものは吹っ飛ぶ。大胆不敵になれるのさ。そうだろう? 引きようがないなら進むしか手立てはない。目前の獲物を見定めてまっすぐにな!
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