父ハヤブサのひとコマ

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父ハヤブサのひとコマ

 おれは今、子育てのまっただ中。  ひじょうに忙しい時期なのだ。  今日も腹を空かせた三羽のチビたちの獲物(メシ)()りに行かなきゃならない。  チビたちだけじゃない。チビたちにつきっきりのワイフとおれの分もしっかり調達しないとな。とにかく忙しいのさ。この時期は一番大変なんだ!  オスの仕事は家族に食わせるためのエサの確保だ。さて、今日もエサの獲物を狩りに行くぞ。  チビたちは卵からかえるが早いか急速にデカくなる。おれたち大人は何年経っても大人のままなのに、こいつらときたら足元で雪玉(スノウボール)みたいにコロコロしてたのがほんのひと月経つ頃にはおれよりデカくなってるんだ。  蚊が鳴くような声でぴいぴい鳴き、体の一部がかすっただけでステンと横倒しになっていた雪玉エンジェルたちも、成長につれ加速度的(かそくどてき)に食い気が増し、エサを要求する声は絶え間ない雷撃を雨あられと浴びせんばかりの威力になる。我がもの顔に巣を闊歩(かっぽ)する腕白モンスターの爆誕だ。この貪欲(どんよく)なおチビ連中ときたら四六時中「エサくれエサくれ!」の一点張りリピートで猛烈に急かすんだ。エサを短いスパンで馬鹿みたいに消費するので、馬車馬のようにたくさんの獲物を仕入れ続けなきゃならない。エサを届けたら届けたで、ドドドド! と太古の恐竜もかくやの咆哮(ほうこう)と突進をかましてくる。空腹時はともかく満腹でも親の顔と見るなりれが至上使命とばかりの体当たりをかましてくる。人(鳥)生で一番気が休まらない時期ってわけだ。  疲れるし苦に感じることもあるが投げだそうとは思わない。それらを上回る使命感がおれを突き動かすんだ。言ってみれば本能だな。他の巣の連中も同じはずだ。おれたちは家族の今日の飯のために(わき)()も振らずに狩り場へ飛んでいく。何度でもな。だが雨や風の強い日は狩りが難航してしまう。思うようにならない日だってあるもんだ。そんな日はチビたちには()えが降りかかり、エサを求める声にも拍車(はくしゃ)がかかる。まったく、こっちは自分の分で精いっぱいだってのに。まあ、こいつらは食って鳴いて寝るのが仕事だ。弱いうちはおれとワイフが助けてやらないとな。巣立ちまでもう少しの辛抱だ!
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