息を揃えて、破滅へ一歩

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 自宅療養を選び、今は穏やかに余生を過ごしてるとこなのー、なんて彼女は言う。言われなければ、健康な普通の人とあまり変わらないように見えるため、にわかには信じがたい話であった。確かに昔より痩せた印象だが、そもそも最後に会ったのが小学生の頃なので殆ど参考にはならない。そして、女性は化粧でかなり誤魔化しがきくイキモノなので、顔色だけで彼女の言葉の審議を図ることはできなかった。  確かに難病の人でも、元気なタイミングなら外を普通に出歩くなんてこともできたりするのかもしれない。残念ながら私は近くに重病人がいた経験もないので、すべては想像するしかできないわけだが。 「……遺産が少なくたって、玲美は女の子なんだよ?変な人が寄ってきたらどうするの」  ツニッターに個人情報をまるっと晒す。  そして毎日、駅前のこのレストランに、午後二時に待っていますと宣言する。  正直なところ、眩暈がするほど無謀な作戦であった。そもそもお父さん、を名乗る人が複数現れたりしたらどうするつもりなのだろう。否、現れるまでずーっと同じレストランで毎日待つという方が馬鹿げた話である。そんなことを一体どれだけの時間がかかると思ってるのか。 「そんなに玲美のフォロワー、多いの?」 「一応、一万人くらいはいるかなあ。まあ、今は鍵にしちゃってるんだけど」 「意味なくないそれっ!?そもそも鍵にしてるとリツイートできないってわかってます!?」 「そういえばそうだねえ」  駄目だこりゃ、と私は呆れた。彼女がどうしてもこのレストランに入りたいと言った理由は理解できたが。このやり方で、彼女の“お父さん”が本当に見つかるとは到底思えない。  余命宣告されたというのが事実であるなら、友達として心底気の毒だとは思う。それで、遺産を継いでくれるという名目で唯一の肉親である父を探して会いたいというのとわかる。しかし、本気で探すならもっと確実で安全なやり方かなどいくらでもあるのではなかろうか。 「……やっぱりやめようよ、玲美ー。いくら鍵だからって、これは危険すぎるよ。個人情報保護大事。今の時代の常識だって」  彼女に教えてもらったアカウントをフォローし、フォローリクエスト許可を出してもらいながら。私は再度彼女にやめるように説得した。見せてもらったツイートは想像していた以上に個人情報が駄々漏れであったからである。しかも、玲美の顔写真まで載せてる始末だ。  こう言ってはなんだが、玲美は小柄でなかなか可愛い顔立ちをしている。童顔で、まだ未成年でも通るかもしれないくらいの見た目だ。変質者に狙われないかどうか、こちらとしては心配でたまらないのだが。 「探偵に依頼するとかさー。そういうんじゃダメなの?」 「だめー。信用できないし、後でめんどくさそうだしー。大体……」  玲美の言葉は、中途半端に途切れた。一人の中高年くらいの男性が、テーブルのすぐ横に立ったからである。 「あ、あの……櫻井玲美さん、ですか?」  嘘でしょ、と私は目を剥いた。完全に固まる私をよそに、玲美は目を輝かせて尋ねたのである。 「そうです、私が玲美です!も、もしかして!?」 「そ、そうです。私が……貴女の……お父さん、です」
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