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息を揃えて、破滅へ一歩
「ちょちょちょ、それ流石に危なくない?」
思わず私は、すっとんきょうな声を上げてしまった。非常識が過ぎるし防犯意識も欠け過ぎている。そんな私の意図を理解しているのかしていないのか、目の前の友人はにこにこと笑うばかりだ。
「えー、そうかなぁ。素敵な考えだと思うんだけど」
「ダメダメダメ!ダメだってば!いくら大した遺産も何もないからって、危険がすぎるってば!」
とにかく、一気に情報が押し寄せすぎて頭が全く追い付かない。私はぐるぐるしている頭蓋骨を叩きながら、必死で思考を回していた。現在地は、ファミレス。私と友人の秋本玲美は、小学校以来の友人同士である。といっても、小学校卒業と同時に別れて以来、再会するのは二十年以上ぶりとなる。仕事の関係で地元に戻ってくることになった私が駅前をぶらついていたら、偶然ぱったり出くわしたという奇跡のような流れだ。
玲美はちっとも変わっていなかった。いつもにこにこ、何を考えてるのかよくわからない天然ちゃん。それでいて、妙なところで度胸もあるし行動力もある。小学生時代は親友として、いつもお互いの家に突撃してゲームやらなんやらで遊んだものだった。高校までは年賀状のやり取りをしていたが、大学に入った年に送った手紙が宛先不明で戻ってきてしまい、以来彼女とは音信不通の状態であったのである。
もしかしたら何かあったのかもしれない――そんな不安を抱いて過ごした十数年。こうして無事な姿で彼女を発見でき、一緒にお昼を食べようかー、とまったりレストランに入った、そこまではいい。そこから突然、彼女ににこにこ告げられた言葉がとんでもない内容であったのだ。
『私ねー、もうすぐ病気で死んじゃうのねー。だから、遺産を相続してくれる人を探してるの。お母さんは死んじゃったけど、多分お父さんは生きてると思うんだよねえ』
あまりにも呑気に言うものだから、最初は何を言われたかわからなかったほどである。数秒の後、マジ?と間抜けた声を返すだけで精一杯だった。悲しいとか残念だとかいう気持ちより、疑いと戸惑いが混じっていたためである。ましてや。
『それでね、ツニッターに情報を拡散してー、お父さんが私を見つけてくれるように頑張って探そうと思ってるのー』
『は、はいいいいいい!?』
そして、話は冒頭に戻るというわけだ。
彼女の両親は小学生の時に離婚していて、私もそれは知っている。お母さんの秋本真美さんは、お父さんの櫻井玲二(秋本、というのは離婚後のお母さんの性である、と注釈しておく)と別れて以来、女でひとつで玲美を育ててくれたのだそうだ。
しかし、彼女は玲美が高校生の時に病死。母親方の遺伝的な欠陥が病の原因であったとかで、玲美ももうすぐ同じ病で生涯を終えるのだという。――説明してしまえば簡単に聞こえてしまうが、あまりにも壮絶な人生だった。目の前の彼女が平然と微笑んでいるのが嘘であるかのように。
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