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おかしい、と思う機会はいくらでもあった筈だった。
何故父は、望んだ結婚ではなかった=母のことを愛していたわけでもないのに、新たな后を娶るということをしなかったのか。
仮に本当に子供の作れない身体であったとしても、この国は后もまた政治に深く関わる権利を持っている。仕事を分担できる、という意味で、有能な執政官の女性を后に迎えるということをしてもなんら問題はなかったはずだ。その方が父の負担も減ったであろうし、国の政治の仕組みを考えてそのようなやり方で后を選ぶ国王は少なからず存在すると知っている。
加えて、長年伝統とされてきたいくつもの政策を覆し、国の人々や団体への支援方法を大きく変更してきたこと。アイラン教に対する、苦い感情の理由。全ては、一本の線で繋がっていたのである。
「お父上……」
かつて母が使っていたという、一室。その部屋の鍵を、こっそりオルガに借りたカティアは。全ての真実を知り、今父の前に立っている。
執務室で大量の仕事を溜め込み、疲れきっているはずの父は。それでも、娘が尋ねていって無視をしたことは一度もない。例えその結果返ってくるのが、厳しい叱責の類であったとしてもだ。
「お父上に、お尋ねしたいことがあります」
「何だ」
長身にして屈強、戦争になれば真っ先に先陣を切るような勇ましい父王は。明らかに仕事の多くを抱え込んでいるとわかる有様であるのに――その日は手を止め、しっかりと娘を見据えたのだった。まるで、カティアの覚悟を予め悟ってでもいたかのように。
「私の……母上は。どのようなお方でしたか」
同じ質問は、過去に何度もしたことがある。そのたび、返ってくる言葉はいつも似たりよったりだった。今回も同じである。
「……お前の母は。とても軟弱であった」
それは、オルガの言葉とは全くの逆。
「女であることに甘え、嘆き、自分の役目も正しく理解せぬ愚か者。やりたくないことはやりたくないと駄々をこね、そのための后であるはずなのに子供を産むことさえ嫌だと当初はごねた。私はそんな女を心底軽蔑していたものだ。上級貴族から祖父の勧めで迎えた妻ゆえ、そんなくだらぬ女であっても離縁などできるはずもなかったがな。娘を一人産むだけで、一体何年費やしたかもしれん」
父は母が、嫌いだった。大嫌いだった。それがわかる台詞は、ますますカティアに父への反発心を産ませるに十分であったのである。確かに自分は母の顔を知らないし、母への愛情があるかといえばそれもわからぬ話だ。それでも恋しいとは思うし、大体母がいなければ自分は存在していないというのに。顔もわからぬとはいえ、実の母をこうも悪し様に言われて、気分が良い娘が一体何処にいるだろうか。
そう、思っていたのだ――かつては。民には権利を保証し、平等が大切であり、男女の区別なく皆が幸せである国が作りたいなどと理想を語りながら。自分の妻になった女性にだけは、その愛を向けぬ冷徹な男としか思えなかったから。
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