UBY2050

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西暦2050年。 人類が宇宙進出をより身近なものして実現を果たしてから数十年。 2050年になりようやく一般向けの月面行きロケット航宙便が配布されようとしていた。 無論、月面旅行へのチケットは大いに人気を博し、チケットの争奪戦は混乱を極めるかのように思われた。 だが実際にはそうした混乱は生じず、さりとて月面旅行に話題が集まらなかったわけでもなく、事態の収拾に一役買っていたのは政府の執行した制定によるものだった。 政府は高齢者にチケットが優先して取れるように手配し、その理由として「高齢者に対する尊敬と畏敬の念を示すための正当な行為」との声明を出した。 それに対し、我先に月旅行を体験しようとする若人など一部からの批判はあったものの、たいていの声はこの制定に対する賞賛であり、さらには現政府への支持率向上にも一役買っていた。 そして施行された月旅行のチケットはすべて無料にて配布された。 当然この行為に高齢者の人々は喜び、気持ちが若返って体も軽くなり、体調も良くなった!という嬉しい副産物を生み出しながら数多の老人たちによるチケット申込はうなぎのぼりで急上昇。 そんな折、柏木ゆうという名の御歳八十九歳になる女性も他の高齢者と同様にチケットの申し込みを行い、一週間後の結果は彼女に大きな笑みをもたらした。 幼少期から別段、宇宙旅行への深い憧憬の念を抱いているわけでもなかったが、それでもいざ実際に自分が宇宙に行くとなると胸は踊り、前夜は興奮により寝付けず何度も寝返りを繰り返していたほどだった。 いよいよ月面旅行当日となって彼女をはじめ当選した高齢者の方々はスペースシャトル型の旅客機に乗り込んだ。窓辺の席でないことにゆうは少々の気落ちを覚えるも、これから自分が降り立つ初めての場所のことや、地球を離れるという前例のない開放感は、想像するだけでも彼女の心を黒髪の時代にまで若返らせた。
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