UBY2050

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突如として大きな横揺れ。数十秒間、絶え間なく左右に揺さぶられ続け、いったん揺れが収まると辺りはしんと静まり返っていたが、次第にざわざわと騒がしくなるのは乗客の不安を顕著に示していた。 「乗客のみなさま、申し訳ありません。本宇宙旅客機はトラブルのため、月への緊急着陸を行います」 こうしたアナウンスが次に流れると周りのざわめきはよりいっそう高まり、「ふざけるな!」という男性のような野太い女性の声から「いやあああ」といった悲鳴のようなものまで飛び交った。 ゆうはさきほど流れた人工音声のアナウンスを頭の中で繰り返しこだまさせ、ふいに”そういえば”と思うことがあり疑問が生じていた。 ”この旅客機には誰一人として、人間のスタッフが見当たらないようだったけど、どうしてだろう?” この時代において自動操縦は一般的であり、各種のサービスは人型の簡易ロボットが行いトラブルに対応するのもすべて機械に任されていた。 それでも地球内における旅客機では未だキャビンアテンダントが搭乗するのが主流であり、人間によるサービスは機械人間によるサービスに比べ心理的満足が高いとする研究結果が発表されたというニュースを目にしたことをゆうは未だに覚えていた。 「三重シートベルトをお締めください。繰り返します。三重シードベルトを―」 機械音声によるアナウンスが再び流れ、ゆうをはじめ周りの高齢者たちは両肩へのシートベルトをまわし、腿もとを座席に固定させるシートベルトも身に着けた。 「まもなく月へ緊急着陸します。衝撃にご注意ください。繰り返します。衝撃に―」 ゆうは思わず唾を飲んだ。 嚥下した唾液には微細な固形物が混じり、気管へと僅かに入って咳き込むほどの体力はあったが、次の瞬間にはごおおおおおという空耳らしき滑空音を耳にしながら意識は次第に、ゆっくりと遠のいていた。
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