本当の告白

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 カレンは自信がその言葉にどのような表情で返したのかわからなかった。  ただ、それを見たアユミは目線を逸らして「忘れて」と小さく呟いた。  多少の驚きはあったが、一方でその言葉が表に出てくるのにはどれほどの葛藤があったのだろうか、と冷静に見つめているカレンもいた。アユミの胸の奥では長い長い根っこが様々な方向へ伸びているに違いない。そこにはどのような感情があるのだろうか。この先身体が動かなくなる自分に嫌気が差したのか。自分と一緒ならここですべてを終わりにするとしても怖くはないのだろうか、と思い上がったことも考えたりもした。しかしカレンには、アユミの悩みを本当に理解することはできず、受け止めることもできない。  だからカレンはカレン自身のためを考えることにした。きっとアユミもそれを知りたいのだろう。 「アユミ」 「うん」 「それはできない」  近くの線路を電車が通ったのか、ゴオオと低い音が耳を打つ。二人は身動き一つしなかった。その音がどこかへ消え去るまで。  答えを受け取ったアユミは取り乱すことなく、また絶望した様子でもなかった。しかしよく見ると、シャツの裾を握る手は小さく震えている。気付いたカレンは次の言葉を一瞬詰まらせてしまったが、それでもアユミには今の気持ちを伝えなければいけないと、喉の奥から懸命に続きを押し出した。 「私、まだ生きたい。アユミにも生きてほしいし、もっともっと一緒にいたい。遊び足りないし、いろいろなところへ行きたい。アユミのことも知らないことばかりだし、私もまだアユミに話していないことがたくさんある! これは全部私の我が儘だから、アユミには押し付けたくない。だけど、私はアユミと一緒に生きていきたいよ……」  このまま窒息するのかと思ってしまうくらい、ほとんど息継ぎをせずに吐き出した。それらのセリフが段々と潤いを帯びてきたので、カレンは自分が泣いているのに気付いた。 「カレン……」 「脚フェチでも何でも受け入れるから、死ぬのだけはやだ……」 「わかった、わかったから。死ぬなんてもう言わないよ」  涙を流すカレンを前に、アユミは珍しくうろたえてみせた。目の前を通り過ぎる人も何事かと言いたげな目線を向けてくるので、カレンは泣き顔を元に戻そうと努めたが、唇を強く噛んでもっとぐしゃぐしゃな表情になってしまった。  そしてアユミがハンカチを差し出したが、カレンはそれを受け取らなかった。汚れることも気にせずTシャツの袖で強く目元をこすった。  顔を上げた。カレンの顔は涙の跡がほんのり残っているだけだ。  アユミも人差し指で自分の目尻を一回ずつこすった。 「カレン」 「なに?」 「お腹が空いちゃった。お弁当買いたいな」 「……じゃあ早く買いに行こ。立てそうにないなら私が買ってくるけど」 「うん、大丈夫。牛肉が入っているやつ、あれが食べたいな」  数分前の「死のう」という相談などなかったかのように、駅員に道を尋ねながら、二人は急いで売店を探して目当ての弁当を買った。その道のりでも全くの無言だったということもなく、翌日には忘れてしまっているような話を交わし、アユミは手に持った弁当入りのビニール袋を嬉しそうに揺らしているのだ。 「何で焼肉って、食べると『明日も頑張ろう』って気になるんだろうね」 「そう? そうなのかな」 「……うん。よく考えるとそうでもないかも」 「変なの」  いつものアユミだった。彼女なりの精一杯の強がりで着飾っているのかもしれないが、いつもの凛々しさと呑気さが調和している姿だった。
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