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差し出されたのはお洒落なカップに入ったホットミルクだった。
彼が淹れるコーヒーを飲んでみたいと思っただけに残念でもあったが、一口含めばほろりと涙が零れる。
「あっ……ごめんなさい」
いきなり泣き出して変に思われたかもしれない。
だが、すっと差し出されたのはハンカチであった。
「ありがとうございます……!」
綺麗に折り畳まれたハンカチにまた涙が溢れてしまうのは、しばらく人に優しくされるということを忘れていたからかもしれない。
「お嬢さんの名前を聞いても?」
「り……レイアです」
落ち着いた頃に問いかけられてリエは咄嗟に本名を口にすることを躊躇ってしまった。
夢の中とは言っても綺麗に変身させてもらって、違う自分になりきりたかったのかもしれない。中身は何も変わらないというのに。
「俺は瞳吾、瞳に五に口で瞳吾」
「瞳吾さん……私は麗しいに愛です」
「君にぴったりの素敵な名前だ」
漢字を思い浮かべれば、彼こそ素敵な名前だと胸が高鳴る。
嘘を吐いてしまったことにチクリと胸が痛んだことにリエは気付かないフリをしようとした。
字こそ同じだが、本当はリエと読むのだ。読めないと言われることが多く、名前負けしていると露骨な反応を見せられることもあった。それなのに、今だけは受け入れられる気がした。
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