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「レイちゃんって呼んでもいいかな?」
不意にそんなことを言われてリエは固まってしまう。そんな様子に瞳吾は眉を下げる。
「ごめんね、馴れ馴れしかったかな?」
「い、いえ……! 話しやすいようにしてください。その方が私も嬉しいです」
呼びなれないのはそれが偽名だからだが、異性からそんな風に言われたことさえ久しぶりだった。その上、瞳吾はとても魅力的な男性である。セクハラやパワハラを繰り返す上司とも幼稚な後輩ともまるで違う安心感を与えてくれる。
どうせ、夢なのだ。今だけはレイアでいても罰は当たらないだろう。
「ここはね、夢と現実の狭間の世界。癒しを求める人間が迷い込む場所なんだ。迷い人に俺たちが伝えるルールは一つ。夜明け前にその扉から出て行けば元の世界に帰れるってこと」
玄関を開けたはずが不思議な場所にいたその理由、夢にしてはよくできた設定だとリエは感心する。
ちらりと見たドアの向こうは暗いが、その向こうは見慣れた自宅の玄関なのか。あるいは、ホットミルクを飲み終えたら夢も終わってしまうのかもしれない。
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