野獣おじさんは枯れていなかった

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野獣おじさんは枯れていなかった

 独身最後の砦の取手(とりで)部長。  誰が言ったか、と切り出せば格好良く聞こえるかもしれないけど、当時の新入社員が言った突拍子もないことがきっかけ。 『トリデ部長って、何の砦なんすか?』  その砦じゃねぇ、ってその場にいた全員が思ったはず。それから女子社員が『きっと独身最後の砦ですよ!』なんて言ったのも悪意はなかったはず。多分。  思えばヤツも今では立派になったものだけれど、取手部長は今も独身のまま砦を守っている。顔はいいのに、ゲイなのか、はたまた不能なのかと不名誉な噂を立てられながら。  私――奥野(おくの)優里奈(ゆりな)は今その取手誠一郎(せいいちろう)さんにお姫様抱っこされている。四十を過ぎても若々しく見えてハンサムなイケオジ部長はとても一回り歳が離れているとは思えなくて、安定感がある。アラサー女子でもいつでもお姫様になれるんだって夢見心地になれるくらいには。 「追い返すなら今の内だ」  慣れ親しんだベッドに降ろされて取手部長に見下ろされる。その目は欲に染まりきっていない。まだ紳士。  どうしてこうなったかと言えば、飲み過ぎて家まで送ってもらったという体。
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