一 突然の

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一 突然の

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「え、試飲会ですか?」  オフィス街の路地裏にある小さなバーが私の職場だ。  事務所に呼び出されるとオーナーが私を待っていた。  オーナー――品よく笑う年輩の男は、雅紀の叔父であり、このバーのオーナーであり、私をバーテンダーの一人として雇ってくれた恩人だ。 「あぁ。遅くても今月中に七夕限定のカクテルを三種、考えてくれないかな? できれば七夕の前に試飲会がしたい。マネージャーには私の方から伝えておくからね」 「はい。かしこまりました」  普段からマネージャーに任せっきりで、店についてあまり口を出さないオーナーが珍しい。  オーナーは人の良い笑顔を浮かべて、柔らかい視線を私に投げかけている。  その面影が雅紀と重なった。親戚だから当然だというのに、今更気付くなんて、私はどれだけ鈍いのだろう。 「楽しみにしているよ」 「ありがとうございます」  笑うとオーナーの目じりにしわが寄った。  熟成したウィスキーを思わせる、深みがあるまろやかな笑みだった。  ぼんやりと雅紀が生きていたら、そんな風に笑うのだろうかと想像し、私に向けられた弾けるような彼の笑顔を思い出す。  雅紀の笑顔は酒ではなく酒樽の木材の香りを連想させた。  木材――ホワイトオークの力強さを感じさせる甘い香りだ。内にこもりがちな私の手を引っ張って、いろいろな世界を私に教えてくれた彼。  最後に教えてくれた世界は、星が下界に降り注ぎそうなほど幻想的であり、圧倒的で、雅紀を思い出すときは彼とセットで私の記憶に現われる。  星降る夜と七夕。  なんて、安直な。だけど、一度そうだと感じてしまうと、しなければならない一本の線へと繋がっていく。  限定のカクテルを三種。その中に、雅紀が見せてくれた星降る夜を表現できないだろうか。  早速家に帰ったら、レシピ作りに取り掛かろうと私は決意した。
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