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四 試飲会 なつかしさ
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「まず、最初は懐かしさをテーマにしたカクテル……」
カッチリとした黒のスーツに着込み、バーのドアに『close』の看板をさげて、私はバーカウンターで三人の男性にカクテルをふるまう。
抹茶のリキュールと日本酒をベースにレモン汁を絞り、熊笹茶の粉をふりかけて上に松の実を添える。
使うグラスは細長い円錐状のリキュールグラスだ。
レモンの酸味、抹茶と熊笹茶の渋みのバランスに、香ばしい松の実がアクセントになっている。
飲んだ後に鼻を通る、陽に当てられた草のような香りに好みが分かれそうだ。
「七夕の笹をイメージしました。物足りない方の為に、ドライフルーツのトッピングをご用意しております」
「ほう、ドライフルーツは何種類の用意があるかね?」
三人の男の一人はオーナーだ。オーナーは興味深げに、リキュールグラスを手に取っている。
「オレンジ・レモン・パインです。懐かしさをテーマにしていますので、身近なフルーツをと」
三つのリキュールグラスに、それぞれ輪切りのドライフルーツをトングに挟んでのせていく。沈まないように慎重に。
濃い緑の下地にぱっと咲く花か、もしくは月をイメージし、松の実を土台にやや斜めに配置するのがポイントだ。
「……まぁ、奇をてらうよりマシだな」
ぼやくように呟いた、オーナーの右隣に座る男はこの店のマネージャーだ。
渋みの取れていない花梨酒を口につけたような顔で、気難し気に眉根を寄せている。
「あぁ、見てください。パイナップルの輪っかだと、松の実が真ん中に見えて花のようですよ」
対称的にオーナーの左隣に座る男は知らない男だ。無邪気な感想を述べる唇は薄く、私を見る瞳には強い力が宿っている。
おおむね好評な反応を見て、私は次のカクテルを用意した。
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