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六 試飲会 星降る夜に
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サワーグラスにレモンリキュールを入れて、次に氷を取り出すとカウンターから声が上がった。
「え、青い」
「はい。ハーブティーを凍らせた氷です」
ハーブの名前はバタフライピー。深いコバルトブルーのお茶として、タイでは一般に普及されているハーブだ。
最近では日本でも、バタフライピーの豊富なアントシアンと美容効果に注目が集まっている。
味自体はそんなになく、レモン汁と混ぜて飲むのが主流だ。
グラスに青い氷を入れて、並行して白ワインと炭酸水1対1のスプリツァーを作り、青い氷のグラスに注ぐと勢いでシュワっと炭酸の泡が盛り上がった。
「あ」
だれかが声を上げる。
照明に照らされてキラキラと立ち上る気泡と、背景の青い氷が幻想的な色合いを醸し出している。
まるで星の奔流のように。雅紀が私に見せてくれた、星空の写真を見た時と同様に。
零れ落ちそうになる光の奔流を、私は絶妙な角度で揺らして勢いを削いだ。
テーブルに出すころには炭酸が収まり、グラスの中で星のごとく気泡を漂わせている。
「まるで、一瞬の出来事でしたな」
オーナーが連れてきた男が呆けた顔で言った。
そう、一瞬。このカクテルは演出の色合いが強い。
光の奔流で客をハラハラさせて、ほっと一息つくと。
「あれ、色がかわって」
「あぁ、懐かしい。リトマス試験紙みたいだ」
レモンリキュールの酸性に反応して、溶けだした青がたちまちピンクに染まっていく。
キラキラと光る気泡に、青からピンクに変化する鮮やかなグラデーションにみな心を奪われていく。
「これは、最初は天の川。最後に、太陽が昇り始める夜明け間近の空をイメージしています」
私が表現したかった。もう二度と手に入らない一瞬。
彼が死んで、彼の故郷で星空を眺めた時、たしかに美しいと思ったが、次の瞬間にどうでもよくなった。
私が美しいと感じた星空は、雅紀がみせてくれたあの一瞬にだけ存在し、もうどこにも存在しない。
「いやぁ、夢を見ているような、そんな味でした」
完全にピンクになったカクテルを飲み干して男が言う。
私は男の感想に満足する。
演出だけではなく酸っぱいレモンリキュールの味と、炭酸の刺激、白ワインの余韻――それらを内包して夢のようだと表現してくれたのならとても嬉しい。
それこそが私が求めていた感情だった。儚く消えた喜びだった。
私は微笑を浮かべて頭を下げる。
こうして七夕に出す、期間限定カクテルの試飲会は幕を閉じたのだった。
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