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エピローグ
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「いやぁ。久々にみたら、君の腕の良さに惚れ惚れしちゃったよ」
「ありがとうございます、オーナー」
私服に着替えて店をでると、店の外でオーナーが待っていた。
そのまま一緒に帰路について、駅まで一言二言言葉を交わす。
「そういえば、彼の、私が連れてきたお客なんだが、どう思うかね?」
少し、罰がわるそうにオーナーが言う。
「……見た所、品がよさそうでした。オーナーと同じタイプの人間かと」
「あぁ、そうなんだが。彼が新しい店を出すというので、腕のいいバーテンダーを紹介して欲しいと言ってきたのだがね」
言いにくそうに顔を俯かせるオーナーに、私はある程度の事情を察した。
こんな風に心の機微に反応できるなんて、私も成長してしまったものだ。
「私はもう、大丈夫です。いつまでも、オーナーの厚意に甘えるわけにはいきません」
私の言葉に、オーナーは虚を突かれた表情になる。
「情けないよ全く。君を助けようとしたのに、結局僕は……」
「いえ、ずっと助けられていました。おかげで私は、雅之の思い出を形にすることが出来ました」
お客様に出すものだから。
第一に、お客様が望むものを考えるように。
そして、第二に、自分の心を大切に――。
この言葉に導かれて、私は青く輝く天の川を眺める日々から、日常に戻ることが出来た。
織姫と彦星の三層のカクテル――私たちの関係性。
私の好きな飲み方は、綿あめを下まで突き崩してかき混ぜる方法だ。
カクテルと溶け合うことのないゼリーは、花弁のように黄色く濁ったカクテルの濁流を舞い、口の中に吸い込まれていく。
停滞することなく、後退することもなく。
ただ淡々と日常を受け入れていく。
酒樽で眠るワインではなく、数多の酒を扱う一人のバーテンダーとして。
「……あははは。やっぱり、あの青い氷のカクテルは、雅之と僕の故郷の星空だったのか」
オーナーが泣き笑い、私も自分が泣き笑う顔になるのを感じていく。
乙姫になれない私は、こうして彼がいない未来を生きていくのだろう。
「そうなんだよね。僕も、いつのまにか大丈夫になってさ、参ったよ。あの子には特別、目をかけていたのにね」
乾いた笑い声をあげてオーナーは空を仰いだ。
つられて私も空を仰ぐ。
都会の輝きに負けた、月も星も見えない夜空。
だけど、確信していた。
私たちは同じ夜空を見上げている。
雅之がいた星降る夜を。
【了】
今回の執筆にあたって、こちらのサイトを参考にさせていただきました。
初心者向け、抹茶リキュールの選び方&飲み方パターン集!
https://www.youtube.com/watch?v=FJSS7_qCSyQ
観てるだけで楽しい、32のカクテルの作り方
https://www.youtube.com/watch?v=aJm-ow96F_c
色が変わる不思議なカクテル「バタフライピー」のお酒/How to make Butterfly Pea Soda Cocktail
https://www.youtube.com/watch?v=27hHfbR-4m4
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