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さて、幕末に思いを馳せながら歩き続けた一条通の道幅がまた広くなる。少し進むと堀川にかかる橋が見えた。一条戻橋だ。その橋を見たつき子さんの顔が険しくなる。しかし沙夜はそんなつき子さんの様子に気付かずに、ナビの指示通りに一条戻橋を渡ろうと歩を進めていた。そのまま進み橋の中央、堀川の真上に来た頃、険しい顔のつき子さんが口を開いた。
「ねぇ沙夜。この橋は、やめませんか?」
突然声をかけられた沙夜が立ち止まる。
「え?何、つき子さん。聞こえなかっ……って、え?」
つき子さんに言葉を返そうと立ち止まった沙夜の足元が軽く揺れたような気がした。
「何?地震?つき子さん、大丈……?」
沙夜はつき子さんを振り返ろうと顔を上げ、そして眼前の景色に目を奪われる。
「桜……?なんで?今は桜の季節じゃ……」
そう、現代の京都は初夏。桜の季節はとうに終わりを迎え、新緑が生い茂っている季節のはずである。しかし今、沙夜の目の前の景色は橋の上から見事な堀川沿いの桜が満開である。
「何、これ」
呆然と呟いた沙夜はいつも傍にいる付喪神の青年を振り返る。沙夜といつも少し距離を保って立っているはずのその青年は、しかし今沙夜の目の前にはいない。
「つき子さん……?」
不安になった沙夜はいつも立っているつき子さんの場所へと行き、呼びかける。そして急激な肌寒さを感じてしまい1つくしゃみをした。
「寒い……」
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