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付喪神。それは長い年月を経た道具などに神が宿ったものを言う。
そんな付喪神と共に成長した1人の新米女性記者がいた。名を杉本沙夜と言う。
沙夜が幼少期の頃母親から貰った古びた櫛、それが付喪神だ。豊かな長い黒髪を後ろで1本に縛り、櫛をさした温和な性格のこの青年のことを、幼い沙夜は『つき子さん』と呼んだ。
さて、そんなつき子さんと沙夜は常に一緒にいた。学生時代はもちろん、沙夜が社会人になった今も、職場である小さな出版社へと一緒に出社していた。付喪神であるつき子さんの姿は他の人には見えないようで、大人になった沙夜はなるべく外でのつき子さんとの会話を避けていた。つき子さんもそれは分かっていたので、外ではなるべく沙夜に話しかけないようにしている。
そんな2人がいつも通り今朝も満員電車に揺られて出社すると、沙夜は編集長から声をかけられた。
「何でしょうか?」
編集長のデスクの前に立つと、編集長は眼鏡の奥の瞳を光らせ口を開いた。
「京都へ飛んでくれないかね」
「京都、ですか?」
パッチリした二重瞼をぱちくりさせる沙夜に、編集長は口端を上げて続ける。
「単独で、京都の町屋カフェの取材をしてきて欲しい」
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