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それは沙夜にとって思ってもみなかった話だった。普段、取材と言えば先輩記者と共に行動していたので、単独での取材となるとこれが初仕事となる。
「いいんですか?」
信じられないと言った風の沙夜に今度はしっかりと微笑み、編集長が頷いた。沙夜は満面の笑みを堪えることなくがばっと頭を下げた。
「ありがとうございます!」
こうして沙夜の京都行きが決まった。
帰宅した沙夜は浮足立っていた。
「初仕事!しかも京都だよ、つき子さん!」
「良かったですね」
落ち着いた柔らかな声音のつき子さんに沙夜は続ける。
「京都、八ッ橋、宇治抹茶……」
「食べ物ですか。沙夜は昔から花より団子ですね」
うっとりと呟く沙夜に微苦笑するつき子さん。そんなつき子さんにも京都と言う土地には何かしらの思い入れがあるようで、
「京都は歴史の深い町ですから、何事も起きなければよいのですが」
「何も起きないよ、つき子さん。この近代化が進んだ現代に、一体何が起きると言うの?」
付喪神が憑いている時点で、十分沙夜の日常は現実離れしているのだが、つき子さんが傍にいることが当たり前になっている沙夜はそれに気付かない。
「無事に取材を終わらせて、無事に帰ってくる!」
鼻息荒くそう言う沙夜に、つき子さんは柔らかな微笑みを返すのだった。
そして翌日、沙夜は当然のようにつき子さんと言う非現実的な存在を連れて京都に向かうのだった。
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