其の一 つき子さんと初仕事

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 京都駅の広いバスターミナルに到着した沙夜は、ん~と伸びをすると1度深呼吸をする。新幹線にずっと座りっぱなしだった身体が伸びて呼吸が楽になる。観光客でごった返す駅前で、沙夜は目的地の祇園へと向かうバスを探していた。 「すみません」  バスの路線図を見ていた沙夜に1人の老人が声をかけてきた。沙夜はゆっくりとその老人に目を向ける。  真っ先に目についたのは正面に『LA』と書かれた少し色褪せた黄色のキャップ。少したれ目で眼鏡をかけたその顔には(しわ)が刻まれている。恰幅の良い体格だがズボンの上にぽっこりと乗った下っ腹のその老人は、真っ直ぐに沙夜を見つめていた。 「(わたくし)渡辺謙四郎(わたなべけんしろう)と申します。失礼ですがお名前は?」  しわがれた声で、それでも丁寧に尋ねられた沙夜は思わず自分の名を名乗っていた。 「沙夜さん。いきなり不躾に失礼しました。何か困っとうとですか?」  謙四郎と名乗った老人の言葉は京都訛りではなかった。 「あの、祇園に出るバスを探していまして」  沙夜は謙四郎の方言が気になりながらも正直に答えた。沙夜の言葉を聞いた謙四郎は口元の皺をさらに深くして1つのバス停を指さした。 「そいやったら、あそこんバスに乗ったら良かですたい」 「え?」  沙夜は一瞬、謙四郎が何を言っているのか分からなかったが、彼の笑みと指さす方向でバス停を教えて貰ったのだと理解した。
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