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「あ、ありがとうございます」
咄嗟にぺこりと頭を下げてお礼を言う沙夜に、謙四郎はにこにこして言った。
「沙夜さん、逢魔が時にご注意を」
謙四郎は意味深長な言葉を残してバスターミナルを去っていった。沙夜はしばらく人混みに消えていく黄色のキャップを見つめていたのだが、
「バス、行ってしまいますよ」
「あっ!」
つき子さんの言葉にはっとして、慌てて祇園行きのバスの行列へと並ぶのだった。
午前中に祇園の町屋カフェを巡り取材を行った沙夜は、最後に取材したカフェでノートパソコンを使って記事を書き、昼食を摂っていた。つき子さんはその様子を黙って見ている。
「できたー!」
そうしてしばらくした後、沙夜は椅子の上で伸びをするとぱたんとノートパソコンを閉じた。その後ノートパソコンをカバンにしまうと、代わりにスケジュール帳を取り出し、午後のスケジュールを確認していく。後ろに立っていたつき子さんもスケジュール帳を覗き込み、
「午後は御所周辺ですか」
「ここからなら、四条河原町からバスで移動だなぁ」
そう呟くと沙夜はスケジュール帳をカバンの中にしまう。
今日の予定は午前中に祇園での取材、午後は京都御所周辺のカフェの取材。そして夕方を過ぎる頃に再び新幹線に乗り込み、会社へと戻ると言うものだった。
「ハードスケジュールと言うやつですね、沙夜」
「これくらいでくたばってはいられないよ」
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